プレスタージョンの伝説

1165年、東ローマ皇帝マヌエル一世コムネノスの元に、ある手紙が届いた。それはプレスター・ジョンからの手紙であった。中世ヨーロッパで社会現象にまでなった「プレスター・ジョンの伝説」。コロンブスにはじまる大航海時代を後押ししたのは、ジパングの黄金伝説やインドの香料交易などが真っ先にあげられるが、じつは、プレスター・ジョンの王国探しも大きな動機のひとつであったことは意外と知られていない。しかし、五世紀近く騒いだあげく、けっきょく幻の王国のまま徒労に終わってしまった。

プレスターズのユニット名は、このプレスター・ジョンにちなんでいる。

プレスターズの原動力ともいえるこの伝説とは、いかなるものなのだろうか?

 

 「かの東方三賢人の血をひく一族に生まれた王は、今ではペルシアとアルメニアのはるか東方に住むネストリウス派の最高指導者にして司祭である・・・」​ 

 

​ プレスター・ジョンは、イエスの誕生を祝福しに東方からやってきたという、あの三賢人の末裔だともいわれる。その真偽は定かではないが、プレスター・ジョンの伝説は三人のジョンを名乗る男に吹き込まれた。

 1人目は1122年、インドの総大司教ジョンという男で、ローマ法王カリクストゥス2世に謁見し、インドのキリスト教の実態と聖トマスの奇跡を弁じたという。

 2人目は1145年、シリアのアンティオキア司教ジョン・ヒューという男。法王エウゲニウス3世と同席した歴史学者オットーが、その著『年代記』の中で、ヒューの話から、ジョン王のことを紹介している。それが冒頭の文章である。それによると、ジョン王は兵を挙げ、サマルカンド付近でトルコ軍を撃破し、エルサレムを救援するつもりでチグリス川沿岸まで来たものの、兵を渡河する方法に苦慮、やむなく故国にひきあげざるをえなかったのだと。この話を真にうけた法王は、第二次十字軍の遠征を要請するほどテンションを舞い上がらせてしまったという。

 

 そして三人目は1165年、キリスト教会で最も権威をもつ三人、すなわち、法王アレクサンデル三世、ビザンチン皇帝マヌエル一世、神聖ローマ皇帝フリードリヒ一世のもとに、謎めいた書簡を送りつけた差出人「長老ヨハネス(ジョン)」である。ラテン語で記されたその書簡によると、王国は72国を支配下にもち、その領域はバビロンからインドの果てまで広がって、領土を横断しようものならば四ヶ月は要するだろうという。

書簡を眺めながらとつおいつ迷っていたローマ法王だが、受け取ってから12年後、意を決して「聖なる司祭ジョン」への返書を携えた使節団をベネチアから派遣。しかし、ジョンからの回答はなかった。とはいえ、書簡騒ぎでプレスターの実在性に拍車がかかり、その後も伝説の比定地はモンゴルやエチオピアなど世界各地を彷徨うことになる。

 

 東洋に一大キリスト教国があるという噂の出所は明らかではないが、少なくともキリスト教異端派のネスト リウス派からの影響は無視できない。エフェソス公会議(431年)で異端とされた後、ペルシアやインド、中国などの東方に伝わり、中国では唐の時代、景教と呼ばれた東方教会系の一派である。ネストリウス派の信徒は、インドで福音を伝え、奇跡を行い殉教したといわれる十二使徒の1人聖トマスの教えを受け継ぐ者であると自任してきた。

 

 そのネストリウス派が日本に伝来していたという説がある。佐伯好郎によると、渡来系氏族である秦氏によって日本にも景教が伝わったともいわれる。しかし、史実として日本でキリスト教が広まったのは1549年のフランシスコ・ザビエルの布教以降の話である。ところが、群馬県で発見された古代の景教徒の遺跡から「JNRI」の文字が見つかったという。この文字はラテン語のJesus Nazarenus, Rex Iudaeorumの頭文字をとった略語であり、"ユダヤ人の王ナザレのイエス"の意味である。よくキリストの十字架を描いたラテン系絵画に「INRI」と書いてあるが、同じ意味である。つまり、ザビエル来日より約一千年前から、日本ではキリスト教が信仰されていたのである。しかも、この「INRI」はイナリ、すなわち稲荷で、稲荷神社はもともと景教の寺院だったものを、あの空海が習合して現在のスタイルに変えたらしいのである。

 

 空海といえば、表向き仏教徒だが、中国の唐で学んで密教を日本に広めた人物であるだけに、唐で盛んだった景教を知らないはずがない。​明治末に来日したアジア研究家の英国人であるE・A・ゴードン夫人は、真言宗と景教の関連性を確信し、高野山に中国・西安(長安)にあった景教の記念碑「大秦景教流行中国碑」のレプリカを建立したくらいである。

 さらに、景教の影響は、仏教界だけではなく、日本の皇室にまで及んでいた。聖武天皇の后、光明皇后は仏教にはない「罪」の観念と、「悔改め」の観念を非常に重んじていた。これはキリスト教的な観念である。​

 興味深いことに、聖書で神が語った言葉、あるいはキリスト自身が説いたという「A:アルファ(はじまり)」「Ω:オメガ(おわり)」のギリシャ文字を合わせると、前方後円墳のような形が出来上がる。日本の古代王朝と原始キリスト教、あるいはヘブライズムとは何か深いつながりがあるのだろうか。

 

 さて、そろそろプレスターを名乗る楽派が日本に現れた裏付けがなんとなく見えてきたと思うが、意外にもザ★プレスターズは無宗教である。伝説が囁かれた時代と何も変わらない現状、つまり一神教ではどうにもならない、その代わりに音楽という自由な空間の創造に情熱を注ぎ込む。いずれにしても、ザ★プレスターズの登場で「伝説」は舞台を日本に移行し、リバイバルする可能性があるかもしれない。

 

​はたして、ザ★プレスターズの三人組の男は救世主なのか?それとも詐欺師なのか?